茶畑について

その茶畑を訪れた人は、一様に息を飲む。濃淡に輝く美しい緑の帯が、真っ青な空の下に広がっているのだ。

ここは、オーナーの茶畑。年間約500トンの有機茶を世に送り出す約70ヘクタールの茶畑は、南九州の霧島にある。澄んだ空気ときよらかな湧水、豊かな土壌、そして深い霧と激しい寒暖差は美味しいお茶の栽培には最適な土地だ。しかし有機茶の栽培の道には大きな困難が立ち塞がっていた。

製茶工場の3代目である西利実氏は、「お茶ばか」とまで名を轟かせた突然の父の死により家業を担うことになった。しかし、それは継ぐことではなく、新たに会社を創ることだったと言う。引き継いだこと、新しく始めたこと、それは様々だったが父が毎年5万本の茶木を植えてきた事業は引き継ぎ茶畑を広げ続けてきた。

父はオーナーが10歳の頃に茶業経営の将来を見据えて試算を行い、山を開墾して茶木を植え始めた。茶畑の開墾には一言では言えない苦労もあったが、茶農家の軒数が70軒から10軒にまで減ったにもかかわらず、年間の生産量が増えていることからも成果がうかがえる。

有機栽培を始めたのも、会社を新しく創ってからだ。自然の微生物を利用して作る自家製堆肥は5年ほど寝かせる。完熟するので堆肥はサラサラとしていて、想像していたような匂いはない。自家製堆肥は有機肥料と共に茶畑に撒かれ茶樹を育む。

お茶栽培に欠かせない水も霧島連山から流れ出る地下水を汲み上げ、溜池を作り管理している。有機栽培なので、虫は一匹一匹手で取り除く。お茶の有機栽培はまさに根気強い仕事なのだ。「お茶の栽培って年に半分くらいは暇なんでしょう、なんて言われますけど、実はやることはいっぱいあるんですよ」とオーナーは朗らかに笑う。

オーナーは10年単位でお茶栽培を考え、計画を立て、それを実行している。その一方で毎日お茶畑に足を運び、最適な状態でお客様へお茶を提供するために力を注ぐ。年単位、そして一日単位での丹精。その取り組みへの評価は世界にも静かに広まりつつある。それを敢えて言葉ではお伝えはしない。ただ飲んで欲しい。そうすれば、あなたの中にきっと答えが見つかるからだ。